・第2回 カーフ周りの流れ


(1)初期条件として液体を定義する

 第1回のCut&Tryで,SEM法による自由表面解析の概念がつかめてきた.そこで,今回は最終目的に近いスケール,境界条件でケースを作って同様に液体を落としてみよう.作ったのは以下のようなケースである.

解析領域 0.03×0.015×0.02[m]
メッシュ 30×15×20
Light fluid(気体) 空気(@20℃)
Heavy fluid(液体) 水(@20℃)
境界条件 下面のみ流出境界
重力 -z,9.8m/s^2
スラブ(灰色のオブジェクト) アルミニウム
液体(茶色のオブジェクト) 初期条件として設定

 スラブ,カーフが太いのはメッシュ数を節約するためである.
 ここで,一つ罠にはまってしまった.昨年作ったケースでは,(x-y)平面で領域全体を覆うスラブを定義して,その上に重ねて空気のブロックを定義,そこを切断カーフとした.このような方法は複雑な形状ファイルを定義しないでよいので重宝していたが,Transientな場合には上手くいかないことが判明.
 理由は,おそらく各time sliceで「境界条件」を再定義する際に,「この領域はスラブだ」という情報が毎回上書きされてしまうからではないか.すると,1回前のtime sliceでスラブの上から液体を定義した情報が再びスラブで失われてしまう.Transientのケースでは,オブジェクトを重ねて穴を開けるテクニックは使えない.

 上手い方法はあるのだろうが,今回程度のケースなら全ての領域が重ならないように定義した方が早い.従って,スラブは二つの直方体を組み合わせて作った.
失敗したq1ファイル
上手くいったq1ファイル

 計算結果はごらんの通り.予想通りに,液体が落下するという結果が得られた.先端がz=0に達する時刻は,重力加速度から計算すると0.04秒.ほぼ,正確に再現している.



(2)境界条件としての,液体の流入

 第一の関門は楽々クリアした.続いて,レーザー切断としてより自然な,「カーフから液体がわき出す」ケースを作ってみよう.オブジェクトLIQUIDのx方向サイズを0として,TypeをINLETに変更する.

続いて,Attributesで水の流入量を決定しよう.適当に,1ml/sとしてみる.Object sideをHighにするのを忘れないように.


 計算結果は下の図のようになった.おおよそ,予想通りだが意外な現象が.SEM法による自由表面モデルには,表面張力の影響が考慮されていないはずである.マニュアルによると,

RESTRICTIONS

The method cannot be used to produce steady-state solutions directly. However, steady-state conditions can be achieved asymptotically from a suitable transient simulation.

Surface tension effects at the interface are not included in the model. This is however a feasible extension to the model.

Numerical diffusion, despite treatments for its limitation, still imposes a restriction on minimum grid requirements.

Due to the explicit nature of the van Leer scheme, restrictions on the size of the time step increment can make long transient processes computationally expensive.

とある(オンラインマニュアル C:/PHOENICS/D_POLIS/D_LECS/SEMLEC.HTMより).従って,デフォルトの状態では液体の表面張力は考慮されていないはず.しかし,液体がしずくになるのは,表面張力の作用によるものではなかったか・・・・

 SEMモデルの,気体-液体界面の計算が数値的に疑似表面張力を生み出したのだろうか.





・まとめ

03/09/05追記 CHAM-Japanからの情報で,SEMモデルはParallel Phoenicsに対応していないことがわかった.そこで,第1回めからのケースを全てVer. 3.5のsingle node版でやり直している.ところが,上の「液体が流れ出すケース」が上手くいかない.計算させると,液体が消えてしまう!!


 さんざん,条件を変えてテストした結果,原因は

『Ver. 3.5のSEMモデルは液体の流入条件が体積流量だと上手く行かない』

ということが判明.

 代わりに同じ流量を「流速」で与えてやればごらんの通り.この場合,1秒間の体積流量を断面積で割れば等価な流速が得られる.


 なお,Ver. 3.4のsingle node版ではこの制限はない.今までの実験から,Ver. 3.5のParallel版はむしろsingle版より信頼がおけるような気がする.

 このトラブルの原因究明に丸1日掛かった.まあ,地雷を踏むのも私の仕事