関数電卓博物館

fx-10入手にまつわるものがたり

2015/06/05

2015年5月のある日,名古屋在住のS氏からメールが届いた.

こんにちは
初めてお便りいたします。
先生の関数電卓ページ楽しませてもらっています。

私はリタイヤした機械屋です。
関数電卓はいろいろ使ってきました。
新製品に飛びついたり、壊れて買い直ししたりしました。
最初に購入したカシオfx-10は捨てるに忍びず残していました。、
身辺整理することになり廃棄しようと思いましたが、もし貴殿の
コレクションに加えていただけるならお譲りいたします。
ACアダプタで動作確認しました。電池室の蓋の爪が折れています。

「完動品以外はコレクションしない」というポリシーをきちんとご理解されていた.思い出の品,しかも関数電卓の歴史上貴重なモデルである.願ってもないことだ.早速,送っていただくようお願いした.

届いた荷物にはCASIO fx-502Pと計算尺が同梱されていた.fx-502Pも古いモデルなので,これについてもいずれ取り上げたい.Sさんどうもありがとうございます.

コンディションをチェックしたが,電池蓋の爪が折れていた以外は問題なし.電池の液漏れもなく,保管状態も良好.使い込まれたヤレ感は,むしろ時代を感じさせる.受領した状態によっては分解清掃を敢行するが,今回は不必要と判断.電池蓋の爪はプラスチックの部品を自作して溶接.戴き物の外装が一部壊れていることはよくあって,私は必ず修繕してからコレクションに加えることにしている.

   

あとは,外装をクリーニングして完成.乾電池での動作も確認した.

裏蓋のテープは懐かしい「ダイモテープ」.「テプラ」の元祖の様なもので,タイプライターの様な仕組みで樹脂のテープに英字を刻む.このシールは記念にのため剥がさず残すことにした.以下,S氏からの手紙を一部紹介する.

ソロバンと計算尺とT定規で教育を受け、小さな機械メーカーに就職しました。機械設計の部署にはソロバン、計算尺と手回し計算機がありました。
殆どの計算はソロバンと計算尺で済みましたが、精度のいる計算は手回し計算機を使用しました。しかし、間違いが多く、隣の人に検算を頼んだり
したものです。

そのうち、ニキシー管のでっかいタイプライターのような電卓が導入され、計算ミスが激減しました。関数電卓はキャスターの付いたデスクに乗せて、
みんなで取り合いになっていました。

そして、CASIO fx-10の登場です。今までは個人で買えるようなものでなかった関数電卓が、なんとか手が届く価格になり、早速購入しました。
指数表示がなく、使いづらかった思い出があります。

しばらくするとアメリカから関数電卓用LSIが輸入されるようになり、多くのメーカーが似たような関数電卓を売り出すようになりました。オムロン製の
関数電卓を購入して使い込みましたが、指数が使えるので計算がとても楽になりました。

その後、何台ものプログラム関数電卓を購入、使用してきました。PCが登場して表計算ソフトが使えるようになりましたが、手元でチョコチョコと計算
するには、片手で持てる関数電卓は必需品でした。

私が物心ついてからトランジスタができ、ロジックICから4ビットCPU、8ビット・・・いまや64ビットの時代です。8ビット時代には自分でアセンブリの
プログラムを組みましたが、現代のPCはブラックボックスです。コンピューター以外にも新幹線、自動車、航空機や家電製品など、大きな発展があり
ました。面白い時代に生きてよかったと思います。

これからも、科学技術や政治経済の成り行きをもう少し眺めていたいなと思っている昨今です。

S氏とともに半世紀を歩んだfx-10.確かに受け取りました.