関数電卓コラム

07/09/09 数式通り入力電卓の[ALPHA]キーに関する考察

CASIO,SHARP,Canon三社の「数式通り」方式の電卓には左上に[ALPHA]キーがある.これは,数式上でメモリ(A-F,M,X,Y)を使うための専用キーだ(若干,他の機能への割り当てもある).しかし,このキーの必要性については兼ねてから疑問を感じていた.今日はこれについて論じてみたい.



図1: Alphaキー

数式通り電卓で,メモリに数値を代入したいときには

[STO][A]

と打鍵する.ところが,これを呼び出すときの仕様が会社によってバラバラ.基本の使い方は,

値を確認したいとき [RCL][A]
値を数式中で使いたいとき [ALPHA][A]

だ.しかし,機種によってはこれ以外の方法でも値を確認,あるいは数式中で変数を使うことが出来る.実は,工夫次第では[ALPHA]キーを使わずとも,上述のどちらの機能も実現できるのだ.これにいち早く気づいたのがSHARP.EL-509Eの[RCL]キーについて詳しく見ていこう.

まず,[STO][8]でメモリに8を代入.続いて,[RCL][A]を押すと,メモリAの内容が確認できる.


図2: [RCL][A]でメモリ内容を確認

ここで,[+][3][×][2][=]と計算を続けると,自動的に表示はA+3×2に切り替わる.


図3: Aの値を使い計算

これを「SHARP方式」と呼ぼう.ちなみに数式の途中でAを使いたいときは[RCL][A]でも,[ALPHA][A]でも全く同じに反応する.一方,CASIOの最新型では,[RCL][A]のあと[×]キーを押すと,


図4: CASIO方式で,[RCL][A]から計算を続けると...

メモリの内容がラストアンサーに置き換わる.これを「CASIO方式」と呼ぼう.数式の途中でAを使いたいときの仕様はSHARP方式と同様.

結局,このまま計算を続けると答えはSHARP方式と同じになるから良いではないか,と思うかも知れないがさにあらず.CASIO方式では,数式の再利用が出来ないのだ.SHARP方式で数式をプレイバックすると

A+3×2

となるが,CASIO方式では

Ans+3×2

になる.このAnsには直前の計算の答え,14が入っているがこれはあまり意味のない計算であろう.この勝負,SHARPに軍配が上がる.しかしSHARP方式も,不必要な[ALPHA]キーが別に存在するところが気にくわない.

ついでに言うと,CASIOの最新機種はどれもメモリストアが2ndファンクションになっているのが大きな欠点.これだと数値をメモリに代入するために3回も打鍵する必要がある.メモリを多用する人にはSHARP製品の採用をお勧めする.でも,SHARPはラストアンサーが2ndファンクションなんだよなあ.むしろ,こっちの方が使う機会が多いので,これは大きな減点.理想的な電卓はなかなか無いものだ.

最後に,「電卓マニア」のページでも触れたが,Canonの旧機種,F-720iの仕様はダメダメだった.SHARP方式,CASIO方式とも,数式の途中で変数を使うときは[ALPHA][A][RCL][A]どちらでも同じに機能するが,「旧Canon方式」とも言うべきこの機種では,式の途中で[RCL][A]とやると,そこまでの計算がクリアされてメモリAの内容が表示される.だめじゃん.

しかし,2007年9月に発売された新機種F-715Sでは,メモリの仕様はCASIO方式に準拠となった.

キー配置といい,メモリ仕様といい,F-715SにはCASIOSVPAM機(fx-991MSなど)の特徴と似たところが数多くある.技術提携があったのでは,と想像するが実情はどうだろう.とにかく,使いやすくなったのは歓迎.

追記:HP 35sにはもともと[ALPHA]に相当するキーはない.加えて,[SHIFT][MEM]キーで,全メモリにストアされている変数を一覧で見ることが出来る(上下キーで一覧).コイツはマルチメモリ機には絶対に必要な機能ではないだろうか.HP関数電卓の設計思想には感心させられることが多い.


図2: HP 35sのメモリ一覧表示機能