光共振器の基礎

2017/01/23

ガウスビーム

レーザーとは,図1の様に向かい合った2枚の鏡でレーザー媒質を挟んだものだが,鏡の間で安定に存在できる電磁波はどういった特徴を持つべきだろうか.


図1: レーザーの基本構造

 あらゆる電磁現象はMaxwellの方程式を満たす必要がある.いまは電磁波の事を考えているので,Maxwellの波動方程式

\begin{align}  \nabla^2{\bf E}=\epsilon_0\nu_0\frac{\partial\bf E}{\partial t^2} \end{align}

ε0 真空の誘電率
μ0 真空の透磁率

を出発点にとろう.角周波数ωの単色性電磁波が,z軸にそって進行しつつ,有限の大きさのスポットを持つビームであると仮定すれば,その電磁界分布は

\begin{align}  {\bf E}(x,y,z,t)=\phi(r,z)e^{i(\omega t-k z)} \end{align}

いう関数形を持つであろう.ここで\(\phi\)は任意の関数で,簡単のために解をz軸に対して対称と仮定した.式(2)を,\(\phi\)がz軸に沿ってゆっくり変化する関数という仮定の下で式(1)に代入すると,「ガウスビーム」と呼ばれる以下の関数がMaxwell方程式を満たすことが示される.

\begin{align}  E(r)=E_0\frac{w_0}{w(z)}\exp\left\{-\frac{r^2}{w^2(z)}\right\} \\  w^2(z)=w_0^2\left\{1+\frac{z}{z_0}^2\right\} \\ z_0=\frac{k w_0^2}{2} \end{align}

\(k=\lambda/2\pi\) 電磁波の波数
\(w_0\) ビームウェイスト(任意の定数)

ただし,ここでは話を簡単にするため,時間振動項\(e^{i\omega t}\)を落とし,強度の空間分布のみについて示している.


図1: ガウスビーム

ガウスビームはz軸を中心にガウス関数(正規確率分布)状の強度分布を持ち,その広がりはw(z)で表される.ビームの半径が最も小さいのはz=0で,その後は式(4)に従い広がってゆく.手元にレーザーポインタがあったら,ビームが広がる様子を観察してみよう.特に,ビームが充分広がった後には,ビームの断面強度分布が確かにガウス関数になっていることがわかるはずである.

 

開放型光共振器

一方,ガウスビームの位相項に注目すると,ガウスビームはどこでも曲率が

\begin{align}  R(z)=z\left\{(1+\left(\frac{z_0}{z}\right)^2\right\} \end{align}

とという関数に従う球面を波面に持つ.いま,ガウスビームの光路上,適当な2点を選んでこの波面に一致する曲率を持つ球面鏡を置く.Huygensの原理から,波面に垂直な反射板は波を正確に元来た方向にはね返す作用を持つ.すなわち,Maxwellの方程式を満たすガウスビームを2枚の球面鏡で挟めば,(鏡に損失が無いとして)ビームは形を変えずに永久に鏡の間を往復することになる .このように,側面が開放でありながら光のエネルギーを閉じこめる共振器は「開放型光共振器」と呼ばれている.


図2: ガウスビームの波面と開放型光共振器

レーザー媒質を適当な曲率を持つ2枚の球面鏡で挟むと何が起こるかというと,その鏡の間で安定に存在できる,すなわち鏡面とビーム波面曲率が一致するガウスビームが勝手に成長し,鏡の損失と媒質の利得がつりあったところで安定状態に達する.これが共振器の「発振モード」である.レーザービームは,この発振モードを半透過鏡で取り出したものであるから,光共振器内部のモードを延長した形のガウスビームとなる.

 

光共振器のモード

ここまでの議論は,光電場が軸対称という前提で,共振器に成立可能な電磁波のモードについて述べてきた.しかし,現実には光共振器の断面がw(z)より相当大きい場合が多く,このとき共振器は一般に「高次モード」で発振する.詳細は省略するが,Maxwell方程式を満たす一般解は式(3)にHermite関数を乗じた形となり,そのため高次モード発振から得られるビームは「エルミート・ガウスビーム」と呼ばれる.幾つかの高次モードの断面光強度分布を図3に示す.


図3: 光共振器の高次発振モードの断面強度分布. TEM00 が基本モード.TEMnmmnがモードの次数を表す.

多くのレーザーは何十,何百という高次モードが重畳発振しており,見た目には滑らかな強度分布を呈する.しかし大きな違いはその集光性で,n次モードを含むガウスビームはおよそw(z)に\(\sqrt{n}\)を乗じた広がりを持ち,レーザーの特徴である「集光性」「直進性」に欠けるという欠点がある.一方,上図のように最低次モードの断面積はいつでも高次モードより小さいため,光共振器からパワーを取り出すためには高次モードが有利である.このように,「レーザービームの品質(集光性)」と「パワー」は相反する性能であると言うことを注意しておきたい.