関数電卓セレクトガイド

09/01/13改訂
09/11/18改訂
10/07/23改訂
12/10/11改訂
13/04/15改訂

理系人のための関数電卓パーフェクトガイド 改訂第1版

単行本: 299ページ
出版社: とりい書房
定 価: \1,575-
発売日: 2013/04/24

ISBN-13: 978-4863340756

関数電卓のバイブル,「関数電卓パーフェクトガイド」が全面改定されて再び登場! CASIO,Canon,SHARP三社の2012年末現在の現行モデルを全て網羅.

関数電卓の選び方,各種関数の意味と使い方,さらには裏技的な高度な使い方までをパーフェクトに解説.これから買おうとする人,初めて使う人は是非読んで欲しい.

学生諸君からの質問に「電卓はどんなものを使ったらよいでしょうか」というものが多い.そこで,ガイダンスの時に話す内容にプラスして,ここでは本学の「物理学」「物理実験」「教養物理ゼミ」等々の授業に好適な電卓選びの基準について少し解説しよう.

1.好きな機種があるならそれを使おう

君が関数電卓について何かを語れるなら,ここから先を読む必要はない.自分の最も気に入ったものを使いなさい.それが一番幸せだと思う.


2.電子辞書やケータイは関数電卓の代わりにはならない

最近は,携帯電話にすら電卓がついており,みんなが持っている電子辞書にもたいてい電卓機能が付いている.「いまさら関数電卓は必要ないのでは?」と思った君は甘い.君たち理学部や工学部の学生にとって,ケータイの電卓はほとんど役立たずだ.たとえば,ケータイで三角関数の計算や10^15の様な大きな数が取り扱えるだろうか.万一,それらの機能が付いた素晴らしいiアプリがあっても,ユーザーインターフェースが貧弱なのでお勧めはしない.

ではスマートフォンは? たしかに,スマホ関数電卓の実力は私も認めるところだ.実は,自分でも現在アプリを開発中.しかし,大学教育に限れば,スマホは試験への持ち込みが認められていないのでNG.さらに,スマホ関数電卓はほとんどが下記で紹介する「標準入力」タイプ.これは,関数電卓のインターフェースとしてはあまり初心者向きではない.初心者なら,なおさら専用機を買うべきである.


3.「長いものには巻かれろ」の法則

みんなが使っている関数電卓は,それなりに理由があってみんなが使っている.特に,何を選んだら良いかわからない人はこの法則に従おう.使っている人が多い方が, 使い方がわからないときに教えてくれる友達が多いのもGood.東海大学なら8号館のBaBショップに売っているものがそれだ.


4.「300関数」「プログラム機能」等は不要

現在売られている関数電卓では,200以上もの関数が使えるのも珍しくない.しかし,これらのうち諸君が一生のうち一度でも使う機会があるものはそれほど多くない.大学のカリキュラムならsin,cos,tanとその逆関数,logとln,expと10n,あとはn乗とn乗根(√とx2は独立している場合が多い)くらいだ.数値積分まで出来る電卓もあるが,そんな計算は電卓で一生懸命やるよりはパソコンを使った方が良い.道具にはそれにふさわしい使い方がある.電卓は,せいぜい10ステップ以内の計算結果をその場で知るのが目的で,たとえば,数十ステップの計算が必要な場合(実験IIIの「偏光解析」など)はMathematicaの様な数式処理ソフトを使った方がミスもないし,よっぽど楽である.


5.入力方式別お薦め電卓

関数電卓は,入力方式によって

  1. 標準入力タイプ
  2. 数式通り入力タイプ
  3. 自然表示タイプ

に分けることが出来る.手持ちの関数電卓コレクションの中から,現行で容易に手に入る機種の使用感を下に紹介する.別に,ここで紹介されていないからと言って「ダメ」というわけではない.国産の電卓はどれも良くできているので,どれを買ってもそれなりに満足できるので大丈夫.

5−1:標準入力タイプ

SHARP EL-501J Canon F-502G

標準入力タイプの電卓は,最も歴史の古い関数電卓の入力方式だ.下の「数式通り」タイプに比べてとっつきにくいだけに初心者にはお薦めしにくいが,既に持っている人は是非このタイプの電卓を使いこなしてみよう.道具は単純なほど持ち主のスキルを明確に映し出す.

SHARP EL-501Jは2011年に発売されたモデル.今でも,標準入力タイプ電卓には根強いファンがいるため,新モデル投入はありがたい.価格は\720(2013年4月現在)で,以下に紹介する「数式通り入力」タイプに比べればずいぶん安い.しかし,機能的にはこれで何の不足もない.

むしろ,このタイプは最近主流の「数式通り入力」モデルよりも打鍵数が少なくて済み,必要な機能がすぐに呼び出せる.たとえば角度モード切替えキー[DRG]と,123,456という表示を1.23456×10^5表示に相互切り替えする[F⇔E]キーはファンクションキーの一番上にあるが,「数式通り」タイプでこれらに単独のキーを割り当てた機種は皆無.よく使うんだ,実際は.

入手が容易な機種ではもう一台,09年1月発売のCanon F-502Gを紹介する.甲乙付けがたい両機だが,細かい点を言えばいろいろと違いはある.詳しくは関数電卓マニアの部屋の当該記事を参照されたい.


5−2:数式通り入力タイプ

Canon F-788SG CASIO fx-290 SHARP EL-509F

21世紀に入って,関数電卓はこの「数式通り」タイプが主流になった.表示は2行で,入力した数式や数値が上のディスプレイに,計算結果が下のディスプレイに出る.「数式通り」とそうでない電卓の操作方法の違いは下に詳しく述べるとして,やはり[sin][cos]が打ったとおりに出た方が楽なのは間違いない.あと,何と言っても,いちど入力した数式が再利用できる,と言うのがこの方式の標準電卓に比べての最大のメリットと言えるだろう.同じような計算をくり返す機会は大変多い.そんなときは,「標準電卓」ならかなり頭を使う必要があるが,「数式通り」なら前の数式のデータをちょこちょこと変更するだけでよい.

初めて使う関数電卓ならまずこのタイプか,下記の「自然表示」タイプが無難.ただし,2010年代になると,関数電卓の主流はやはり「自然表示」タイプに移行した,と言っても良いだろう.初めて使う関数電卓としてどちらがお薦めか,というのは難しい質問だが,敢えて「理系の大学1年生が初めて購入する関数電卓」に限っては,下記の「自然表示」タイプをお薦めしたい.おそらく,これからはこちらが主流になるだろうから.

左からCanon F-788SG,CASIO fx-290,SHARP EL-509Fで,各メーカーの現行機種である.但しこれら三機は位置づけがまるで違う.F-788SGは2012年末の発売で,Canonが現在でも「数式通り」タイプを重視している証拠である.一方,fx-290は,CASIOの「標準電卓」,fx-260の発売終了とほぼ同時に登場した.CASIOは,もはや「標準電卓」は現代の関数電卓の入力方式としては受け入れがたく,こちらを「廉価版の入門機」と位置づけたわけだ.入門機といっても,ソフトウェア的にはかつての主力機種と同一なので機能に不足は無い.SHARPのEL-509Fは発売から5年以上モデルチェンジしておらず,最近「自然表示」タイプのEL-509Jがデビューしたことから,SHARPは逆に関数電卓に「数式通り」方式は不要,と判断したように思われる.確かに,「数式通り」と「自然表示」の使い勝手は似通っており,「自然表示」タイプを「数式通り」の様に使うモードもあるので,併売はリソースの無駄遣いかもしれない.

上記3機種を比較すると,Canon F-788SGはCALC機能や複素数機能などが付いた上位機種,一方のfx-290は基本に徹した入門機という位置づけ.値段もそれなりに違うので用途によって使い分ければ良いだろう.EL-509Fは,Canon,CASIOとは異なるSHARP方式のキーアサインに慣れた人の選択肢にはなると思うが,「はじめての関数電卓」としてはお勧めしない.

※2013年4月現在,ネットで検索したところ当該機種は既に入手困難になっている.


5−3:「自然表示」タイプ

Canon F-789SG CASIO fx-375ES SHARP EL-509J


CASIOのFX-912ESが先鞭をつけたこのカテゴリーも,国内三大メーカーがそろい踏みで今や関数電卓の主戦場となった.かつて本稿でも,数式がそのまま表示される関数電卓を,CASIOが名付けた「Natural Display」方式と呼んでいたが,これからは「自然表示」タイプと呼ぶのがふさわしいだろう.

「自然表示」タイプの,上述の「数式通り」タイプとの最大の違いは,数式をWYSIWIGで入力,表示すると言う点である.従って,良く見ると分数,√等の入力ボタンが「数式通り」と異なることに気づくだろう.

以下の計算を考えてみよう.

       \begin{displaymath}
\lambda = 2\sqrt{\left\{\left(\frac{1}{12}\right)^2+\left(\frac{1}{8}\right)^2\right\}^{-1}}
\end{displaymath}

これは,かつて「教養物理ゼミナール」で,学生に行わせていた課題の一つで,空洞共振器の共振波長を求める計算だ.こういう計算をやらせると,彼らは項一つ一つを計算し,紙に書き留めてからまた計算,と言う手順をくり返す.慣れればもちろん頭から電卓に入力することはできるが,それでも間違い易い式だ.ところが,「自然表示」タイプならごらんの通り.

       

入力も直感的で,これをキーインするのに1分もかからない.

ただし,国産の「自然表示」タイプには一つ問題がある.小数の計算も答を分数で返すのだ.例えば

       \begin{displaymath}
1.2+1.3=\frac{5}{2}
\end{displaymath}

何とも気が利かない.そのためこの電卓には分数を小数に変換する[S⇔D]キー(メーカーにより表記は異なる)があるのだが,多くの計算で手数が一つ多くなってしまう.SHARPなんぞ,小数表示に直すまで同じキーを2回も押す必要がある.この悪い癖は将来のモデルで是非改善してもらいたい.Texas Instrumentsの30XBは小数の足し算は小数で返すのだから.

2012年12月発売のCASIO fx-375ES,915ES,995ESの3機種は,「自然表示」モードを維持しつつ,解が小数で表示可能なオプションが選べるようになった.これは,「自然表示」電卓における革命的な変化である.これにより,「自然表示」タイプの「数式通り」に対する欠点は消滅したと考えて良い.他メーカーの一日も早い追従が望まれる.詳しくは当該機種のレビューを参照されたい.

上記3機種を比べると,F-789SGはCASIOの上位機種,fx-915ESとほぼ同等の機能で,隣のfx-375ESより若干高い.しかし,fx-375ESに無い機能で,私が必要と感じるものは一つも無いので,Canon信者でなければCASIOをお勧めしたい.上述のように,CanonとCASIOのソフトには共通項が多く,使い勝手はほぼ同じ.

一方,SHARP EL-509JにはCASIO/Canonにあって本機には無い機能,CASIO/Canonに無くて本機にある機能がいくつもあり,選択に悩むところ.まず,回りを見回して,使っている友だちが多い方を選ぶのが関数電卓選びの王道.機能的には一長一短と言うところか.本サイトに比較レビュー記事があるのでご覧あれ.



6.入力方式とキーインの順番

現在では,関数電卓の主流は数式通りに入力する方式である.一方で,お父さんからもらったのか,古い関数電卓を使っている諸君も散見される.どちらが優れているか,という議論は「MTの自動車とATの自動車はどちらが優れているか」という議論と一緒で意味がない.ただ,関数機能の使い方において両者に大きな違いがあることを認識しておかなくてはいけない.

たとえば,sin30°の計算は

fx-375ES
[sin] [3] [0] [=]



EL-501J
[3] [0] [sin]


そして,出た答えのarcsinを求めるのは

fx-375ES
[shift] [sin] [Ans] [=]


EL-501J
[2ndF] [sin]


全体に,数式通り機能の無いEL-501Jの方が,押すキーの数が少ない.これは,伝統的な関数電卓は,常に関数は現在表示されている値に対して行われるという暗黙の約束があるからだ.

一方,「数式通り入力」方式でないと絶対に実現出来ない機能が「繰り返し計算」だ.簡単な例として,長さ12mm,半径が10mmから15mmまでの円柱の体積を求めることを考えよう.

fx-375ES
[1] [2] [×] [π] [×] [1] [0] [x^2] [=] 
[←] [←] [←] [1] [=] 
[←] [←] [←] [2] [=] 以下同様.

このように,数式の一部だけを変更すれば良い計算は,遙かに楽だ.実際そういう計算は大変多い.もちろん,頭を使えば伝統的な関数電卓でも同じような事は出来るが(途中経過をメモリにいれておく),頭を使わずに出来るところを評価したい.


7.関数電卓購入の際のポイント

  1. 「高ければ良い」というのは間違い.780円でも良い電卓はある.
  2. 国内一流メーカーの「普通の関数電卓」ならまずハズレはないと見て良い.
  3. たとえば,以下の計算を実際にやってみて,使い勝手を確認しよう.
  4. 以下のキーがファンクションとして独立していること:[x^2],[√],[1/x]
  5. 以下の機能がすぐ呼び出せると便利:「ラストアンサー」「角度のモード切替」「F⇔E」

「じゃあ,何がいいの?」と思ったら,関数電卓マニアの部屋へGo!

関数電卓の使い方(SHARP EL-501E編)

関数電卓の使い方(Canon F-715S編)

関数電卓の使い方(CASIO fx-912ES編)


8.番外編:逆ポーランド方式の関数電卓について

ここで,お薦め電卓ではないが,どうしても語っておきたいのが「逆ポーランド(RPN)方式」の関数電卓だ.RPNとは,ヒューレットパッカード(HP)社の関数電卓に伝統的に使われていた入力方式で,HPが日本市場から撤退して以来はほとんどその姿を見かけることが無くなった.しかし,HPが世界初の関数電卓「HP-35」発売35周年を記念して発売したこのモデルが日本の業者によって輸入され,RPN電卓に飢えていたマニア達の熱狂によって迎えられた.

RPN方式とその設計思想の根幹である「スタック計算機」は,その原理を知らないと足し算すら出来ないという大変クセの強いものだ(下記「使い方」参照).しかし慣れるともう普通の電卓が使えない体になってしまうという,習慣性の強い麻薬のような恐ろしいものである.従ってこれから関数電卓を選ぼうという諸君にRPN方式をお薦めすることはしないが,関数電卓にもこういう強烈な存在感を放つヤツがある,ということは是非知っておいてもらいたい.

参考文献:野尻抱介著「ロケットガール」

関数電卓の使い方(HP 35S編)