関数電卓博物館

CASIO fx-3

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メーカー CASIO 09/04/03初出
10/03/16追記
型式 fx-3  
発売年 1975年  
販売価格 \65,000 参照:Casio desktop calculator
動力 AC100V  
表示方式 蛍光表示管  
コレクション
付属品
なし
とにかくデカい.他機種と同スケールで表示するとこのサイズになる.しかし忘れてはいけない.本来,「関数電卓」と呼んでよいのはこういうモノなのだ.電子式「卓上」計算機だからね.本機はCASIOがリリースした日本初の関数電卓fx-1から数えて3代目の機種となる.

さて,何から語ろう.まずは,失礼ながら関数の計算が出来ることに感動した.[deg]モードで[3] [0] [cos]とキーインするときちんと「8.660254038 -01」と返る.タイガー計算機で足し算が出来たときの感動に近い.

機能的に,何と言ってもユニークなのが左のスライドスイッチ.ガチャガチャとスライドさせると,下のボタンの表示が機械的に回転する.ロータリー式表示盤なのだ.昔のGINAXアニメ作品を彷彿とさせる,スチームパンクなギミックに40オトコは萌えるのだ.上の状態は極座標→デカルト座標変換モードだが,モードによって表示が次々と切り替わる.

極座標→デカルトモード デカルト→極座標モード 二次方程式モード   統計モード

最後の[N]全ての表示がブラックアウト するが,これが何を意味するのかは不明.「メモリーとして使って下さい」ということだろうか.

この電卓,現代の関数電卓に必ずついているある重要なキーが無いことにお気づきだろうか.「括弧キー」がないのだ.したがって計算の優先順位は普通の電卓と同じで,打った順番に計算が進む.例えば

2+3×4=?

の答は,普通の電卓と同様「20」となる.ある意味,これが当時の技術的限界だったのかも知れない.当時HPがRPN方式を採用したのは素晴らしい工夫だったが,同時に互換性を捨てるというリスクを伴う.日本メーカーは敢えて冒険を避け,普通の電卓の延長線上に関数機能を追加した.

括弧機能が無いのは後継機のfx-102と同様だがこちらは高級機種.演算スタックは3段以上あるらしい.[deg]モードで

[3] [0] [sin] [+] [3] [0] [sin] [=]

と入力すると答は「1」となる.「当たり前じゃないか」と思ったらfx-102のレビューを読んでみよう.今なら当たり前のこの機能,当時は(恐らく)高級関数電卓にのみ備わっていたものだ.

関数電卓にとって重要な機能とは何だろう.もちろん三角関数と指数,対数が最重要なのは言うまでもないが,本機を見ていると「次に何が来るか」というのは関数電卓が作られた時代,場所を映す鏡の様なものなのだと思う.当時の日本といえば高度成長期.田中角栄の「日本列島改造論」のころだ.関数電卓の顧客としては,土木・建築部門のエンジニアが多かったと推察される.彼等にとってデカルト座標と極座標の相互変換は重要な機能だ.測量は通常極座標系(r,θ)の三角測量,一方の建物は(x,y)のデカルト座標がよく使われるので.

現代の関数電卓は超多機能となり,座標変換機能はどこにあるのかすら定かではなくなってしまった.しかし,私の知る限りにおいても土木工学科の学生,土地建物調査士試験の受験者にとっては今でも重要な機能に違いない.メーカーに,顧客にあわせて複数の機種を用意する,といった気の利いたサービスを期待することはできないものか.

数字キーの最上段中央に見慣れないキー[x<->y]がある.これはスタックの入れ換えキーである.意味と用法についてはCZ-5.htmlのレビューに詳しいので参照してもらいたい.

追記:このページを見た,という方からメールを頂いた.『カシオの「加算式電卓」162-Fと本機が兄弟で,加算式電卓も面白いですよ』,という内容.加算機電卓のWebページお持ちなので御紹介しよう

この当時,三角関数を3桁以上の精度で知るには百科事典の様な三角関数表を繰るか,何百万円もするコンピューターを買うしかなかった.32万という価格(当時の大卒初任給の4ヶ月分くらい)で手に入り,机の上に乗り,ボタンを押せば三角関数の値がわかる機械の登場というのは画期的なことであった.

しかし,ここからたった2年で,手のひらに乗って価格が24,800円のfx-10が発売される.当時の技術開発のスピードは現代とは比較にならないほど早く,メーカーにとっては過酷な状況であったことだろう.

日本の電卓の歴史については,国立博物館から大変良い資料が提供されているのでご一読頂きたい.

産業技術資料情報センター 「電子式卓上計算機技術発展の系統化調査」