関数電卓博物館

SANYO CZ-1

 

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メーカー SANYO 10/03/23初出
10/04/12改訂
型式 CZ-1   
発売年 1975(?)  
販売価格 \29,000-  
動力 単三×4 or ACアダプター  
表示方式 LED  
コレクション
付属品
ACアダプター (オリジナル電池蓋欠品)
この電卓の入手に関しては面白い経緯がある.

ある日,山形大学にお勤めの斎藤和男先生からメールが来た.このページのCZ-5の記事を見て,大切に保存してくれるならご自身が現役で(!!)使っているCZ-1を譲っても良い,との申し出があったのだ.もちろん,二つ返事でOK.休日に,帰郷している先生と横浜で落ち合ってゲット.斎藤先生からの面白いメッセージについては別記事にしたので参照して貰いたい.

CZ-1があってCZ-5があるのだからCZ-2,3,4も当然あるのだろうが,ネットでは全く情報が見あたらない.CZ-5の記事ですら本ページがトップという体たらく.インターネットにも死角はあるのだ.

型番からして,三洋電機の初代関数電卓だろう.斎藤先生は当初1971年に購入したと記憶されていたが,当時の関数電卓のレベルからするともう少し遅いはずである.私の指摘に,先生はわざわざメーカーに問い合わせて下さった.ところが,メーカーにもこのモデルの記録が残っていないのだそうだ.どうやら,CZ-1は大学生協と共同開発したスペシャルモデルらしい.ただ,SANYOの担当者の方が当時の一般向け機種のカタログを全て送ってくれたので,およそ特定できた.CZ-1は恐らくCZ-3405Aの派生モデルで,発売時期は1975年と推定される.

当時,高価なHPの電卓を助手の先生が自慢し,それを横目で見ながら国産機で我慢するような位置づけだったらしい.それでも,当時の国産機で唯一「括弧のネストが可能」という高機能機種.

外観上の特徴としては,指数部が独立した位置に表示される点にまず気づく.斎藤先生によれば,当時10のべきを表示できる電卓は他に無かったのだそうだ.そう考えると独立した表示領域を与えたエンジニアの意図も納得.

演算の優先順位に関してはCZ-5と同様,普通の電卓と同じで掛け算の優先を考慮しない.演算スタックが二つしかなく,[Y^X]キーを押すとそれまでの計算が確定してしまう点も同じ.括弧のネストが二重であることが他社にない特徴という時代の関数電卓なので,用途としては加減乗除に加えて,三角関数,対数などを計算尺のように求める程度にしか使われなかったのだろう.

機能的にも最低限の関数しか装備されていないため,「裏関数」がない.しかし,東海大の1年に教えている力学や電磁気学,物理学実験で,この電卓では(苦労はするだろうが)歯が立たない問題は一つもない.双曲線関数ですら,大学の授業で必要になる機会はほとんど無いのだよ.

LEDの表示はバッテリーを消耗するらしく,入力がないとわずか50秒で「スクリーンセーバー」状態に移行してしまう(下写真).これは,表示が指数の[-」を残し全て消灯し,任意のキーで表示が再開する,というものだ.後継のCZ-5は蛍光表示管を使っているせいか消費電力は1/3に減っている.

計算速度は現代の基準からすれば猛烈に遅い.しかし,この電卓で「関数電卓パーフェクトガイド」の様な計算をやってはいけない.そう,これは計算尺なのだ.そう考えるとイコールキーを押してから1秒ほど待たされるレスポンスも気にならない.

斎藤先生が学生時代から今日まで40年近く愛用してきた本機だが,今でも全ファンクションが正常に機能している.汚れてはいたが40年選手としては状態は非常に良い.[8]のキーの反応がちょっとにぶいが,下手に修理することはやめ現状のまま保存することとした.写真に撮る前にちょっと綺麗に掃除して,失われていた裏蓋を自作で補い本サイトデビュー.

こうして,日本の技術遺産をまた一つ受け継ぐことになった.

※私が学生のころも,SHARP PC-1480Uというスペシャルモデルがあった.