関数電卓コラム

07/09/10 関数電卓のラストアンサーと数式プレイバックに関する考察

先日,本ページをご覧になったAさん(仮名)から以下のようなメールを頂いた.なかなか興味深い内容なので考察してみたい.

初めまして。
A(仮名)と申します。

...中略...

数年振りに買い換えるにあたり、たまたま最初に手に入れたものが
SHARPのEL-K710だったので、何となく同社のEL-520Eを購入しました。
変わっていて不便だなと感じたのが

1.ラストアンサーが数字ではないため、イコール打鍵ごとに内容が変わる
  ことです。例えば1回目の計算で出た答を使って、2回目の計算を
  行ったときに入力ミスに気付き、式を修正して計算すると、
  既にラストアンサーが置き換わっているため、期待通りの答になりません。
  1+2=3
  ANS+4=7(+4が間違いで、式を+5に直す)
  ANS+5=12(3+5=8となって欲しかったのです)
  EL-K710では画面上「ANS」ではなく、数値そのものが返されたため、
  式を直接修正できたのです。

2.長時間使用しないと液晶オフになるのは良いのですが、
  計算途中でも内容がクリアされてしまいます。
  EL-K710では、内容が復帰するため、計算の続きを行えたのです。

上記2点は、現在では当たり前の仕様なのでしょうか?
メーカーに問い合わせるべき内容かも知れませんが、
もし、私の望むような機種をご存じでしたらご教示願えませんでしょうか。

失礼いたします。


SHARP EL-K710は1990年ころの機種で,マルチラインプレイバックはできないが二行表示の電卓だ.プログラムも組める,上位機種である.検索:EL-K710

さて,はじめの質問の,「プレイバックで戻ったときに『ラストアンサー』に入っているのは[Ans]か,[Ans]に入っていた値か」ということについて考える.たぶん,わかりにくいと思うので具体例で検証しよう.テスト機種は2007年9月現在の各社の代表機種,SHARP EL-509ECASIO fx-912ESCanon F-715Sだ.

現在の関数電卓では

現行電卓の挙動
1+2=(答:3)
Ans+4=(答:7)
数式リコールすると,Ans+4が現れる.
Ans+5=(答:12)

となる.念のため,手持ちの古い機種でもテストしてみたがどれも同じ仕様だった.しかし,ほとんどの場合,意味があるのはEL-K710の様な以下の動作だろう.

SHARP EL-K710
1+2=(答:3)
Ans+4=(答:7)
数式リコールすると,3+4が現れる.
式を修正,3+5=(答:8)

現行機種で各メーカーが上の旧SHARP方式を採用していない理由は,恐らく,上述の様な簡単な計算ならともかく,循環小数を含んだラストアンサーをプレイバック時に代入すると表示が冗長になるからではないか.しかし,意味のない「ラストアンサーを含んだ式」を幾つも憶える仕様よりはよっぽど使い勝手が良い.

そうそう,この実験をやっていて気がついたのだが,SHARPの電卓は数式にラストアンサーを使うと,直前の数式以外のそれまでの数式履歴を全てクリアする.たしかに,「ラストアンサーを含んだ式」に利用価値が無いことから,敢えてクリアする仕様を選んだのだと思うが.

過去,SHARPの電卓を使っていて,憶えているはずの結構複雑な数式が消えていてショックという経験が何度かあった.二つ前の(ラストアンサーを含まない)数式をもう一度使いたい,という需要はあるのですよ,シャープさん.


続いて,二つ目の質問,電源off後の数式記憶についてテストしてみた.対象は同じく上述の三機種.幾つか数式を憶えさせた後,計算式を途中まで置数して放置,電源が切れたら再びon.

...三機種とも,数式記憶,置数のどちらも綺麗に消えていた.どうやら,これも,こちらの方が便利とメーカーは判断したらしい.変数に記憶させた数値は憶えているので,これは機能的限界ではなくわざとそのような仕様にしていることは間違いない.

と言うわけで,現在の代表的関数電卓の中にAさんの希望を満足させるものはない,ということが明らかになった.

私自身の意見はというと,ラストアンサーの挙動に関しては旧SHARP方式の方が理にかなっていると思う.何で現代の関数電卓は[Ans]を展開せずに記憶する仕様になってしまったのか.

自動電源offの挙動については,私はAさんと異なる意見を持つ.数式履歴を憶えていて困ることは何一つ無いと思うし,憶えていた方が便利だと思うのだが,電源とクリアキーを共通とするSHARPの現代の仕様は非常に合理的だと思うので,やりかけの計算については消えてもしかたがないと思う.ちなみに,Canon,CASIOは電源ボタンは独立したキーだが,これは勿体ない.是非,そのスペースをファンクションキーに割り当ててもらいたい.

※10/02/05追記:TI 30XAは自動電源offから復帰すると直前の状態を記憶している.それでも電源ととクリアキーは共通だ.「電源投入時のみクリアを作用させない」ソフトウェアを組めばよいわけだ.これには気づかなかった.

追記:先日ある人からメールで質問があった.「とある国家試験を受けたいのですが,お勧め電卓は何でしょうか.決まりとして『数式や定数を記憶できるものは不可』です」とのこと.そこではたと思い至った.数式履歴を記憶するタイプの電卓は,一歩間違えるとこの決まりに反して持込ができなくなってしまう.電源offのたびに数式が消える仕様になっていれば使用禁止とならないので,敢えてそうしているのか.Aさんの電卓はプログラム可能なのでどのみちこのような試験には使えない.従って,電源offで途中経過を記憶していても問題はないのだ.